『アイススラリー』が熱中症対策になぜいいの? スポーツ界も注目の、最新の対策を取り入れよう

35℃以上の猛暑日も珍しくはなくなった日本の夏。こうした厳しい環境下でも、多くのスポーツは行われています。暑い中でも選手たちが安全に、かつ、よいパフォーマンスが発揮できるよう、スポーツの現場では様々な暑さ対策、熱中症対策が取り入れられています。こうした対策は、私たちの日常生活の中での暑さ対策、熱中症対策にも活かせることでしょう。スポーツシーンでの暑さ対策を研究されている広島大学大学院人間社会科学研究科教授の長谷川 博先生にお話をうかがいました。


<目次>
1.夏は『運動を控える』はもう古い!? スポーツ界の熱中症対策が変わってきた
2.暑熱環境では運動前から『冷やす』のが、熱中症対策とパフォーマンス維持のポイント。
3.『外部冷却』と『内部冷却』で効率よく冷やし、熱中症対策とパフォーマンス維持を
4.体を内側から効率よく冷やす『アイススラリー』とは?
5.『暑熱順化』で、熱中症になりにくい体に!

夏は『運動を控える』はもう古い!? スポーツ界の熱中症対策が変わってきた

熱中症は高温多湿、風が弱い、日差しが強い日に多く発症します。これまでのスポーツ界では、こうした環境下では『運動を控える』ことが一般的な考え方でした。しかし今は、運動を控えるのではなく、適切な暑さ対策をとりながら、安全に本来のパフォーマンスを発揮しようという考え方になりつつあると長谷川先生は言います。

その背景には、夏季オリンピックやサッカーワールドカップなど、暑い時期に開催されるスポーツイベントの存在も少なからず関係。暑熱環境下でもトップアスリートたちがよいパフォーマンスを発揮できるよう、スポーツ科学の知見が積極的に取り入れられてきました。こうしたトップアスリートたちが実践している熱中症対策は、学校体育の現場や、スポーツをしていない一般の人たちの熱中症対策としても有効です。具体的に見ていきましょう。

暑熱環境では運動前から『冷やす』のが、熱中症対策とパフォーマンス維持のポイント。

私たちの体は、『深部体温』が約37℃になるよう調節されています。深部体温とは、脳や内臓など体の中心部分の体温のことで、私たちが脇の下や口の中で測る体温とは別のもの。体表面の温度が外気温などによって変動するのとは異なり、深部体温はほぼ一定の温度に保たれるようになっています。

通常は37℃くらいに調節されている深部体温ですが、運動中は少し高い38℃くらいがパフォーマンスを発揮しやすい適温だと長谷川先生。しかし、38℃を超えて39℃、40℃ともなるとエネルギーの消耗が激しくなり、パフォーマンスの低下を招いたり、熱中症になりやすくなってしまうと言います。

例えば、暑熱環境下で激しく動くサッカーの試合では、前半の45分間で深部体温が39℃を超えてしまう選手も少なくありません。その対策として取られているのが、試合前に体を冷やす方法です。冷たい飲み物を飲んだり、アイスバスに浸かったりして体温が低い状態から試合にのぞみ、ハーフタイムまでの45分間、深部体温が過度に高くならない状態で戦えるようにします。

暑熱環境下でも、熱中症を予防したりよいパフォーマンスを発揮するためには、深部体温をよい状態に保つことの他、脱水状態にならないよう水分もよい状態を保つことが必要になります。そのためスポーツ選手は、ウォーミングアップ前から、アイスパックを用いて体温を下げることに加え、冷たい飲み物で水分補給を意識して行っています。

さらに、体を冷やすことは疲れをとることにもつながると言います。
「スポーツ選手は試合後、アイスバスに浸かったり、水をかぶったり、冷たい飲料を摂ったりして体を冷やし、素早く疲れをとることを図っています。運動後、適切に体を冷やすことで早くリカバリーでき、食欲や睡眠の質にも好影響を与え、疲れをとることにつながるのです。一般の人も夏の炎天下でダラダラと汗をかいて過ごした日は、体が火照ってなかなか眠れなかったりして、疲れが翌日まで残ったりする経験があるのではないでしょうか。深部体温が高くなった時には、体を冷やすことが翌日に疲れを持ち越さないためのコツです」。

『外部冷却』と『内部冷却』で効率よく冷やし、熱中症対策とパフォーマンス維持を

熱中症対策とパフォーマンス維持のために体を冷やす方法は、大きく2つに分けられます。アイスパックなどを皮膚に当てたりして体の外側から冷やす『外部冷却』と、冷たい飲み物などを摂ることにより体の内側から冷やす『内部冷却』です。効率よく体を冷やすには、外部冷却と内部冷却を組み合わせるのがポイントです。首に濡れタオルを巻いて水分を取りながらウォーキングをするなど、組み合わせて実施しましょう。

<熱中症対策①外部冷却>
体の外部から冷やすことにより、皮膚温や深部体温を効果的に下げることができる。主に、次のような方法がある。

●アイスパック
動脈に近い場所(脇の下、首筋、足のつけ根など)に当てて冷やす。皮膚温は下がりやすいが、深部体温はやや下がりにくい。

●クーリングベスト
保冷剤や気化熱を利用した冷却効果のあるベスト。運動中も着用できるので、冷やしながら運動できるメリットがある。

●送風
送風機などで風を送り、水分を蒸発させる。上記の2つと比べると、やや冷却効率は下がる。

●アイスバス
全身浸かることができる冷水浴。屋外スポーツでも活用できるよう持ち運び可能なアイスバスもある。冷却効率は抜群だが、筋肉の温度も下がってしまうので、冷却直後は運動パフォーマンスに悪影響となる場合がある。


<熱中症対策②内部冷却>
深部体温を効果的に下げることができる。アイスバスのように大掛かりな設備を必要としないのもメリット。主に、次のような方法がある。

●水分補給
冷たい飲み物を摂ることで深部体温を下げ、脱水予防やエネルギー補給も可能。運動前後はもちろん、運動中もこまめに実践できる。

●アイススラリー
液体に微細な氷の粒が混じったシャーベット状の飲み物で、形状的な特性から、深部体温を効率よく冷やすことができる。


体を内側から効率よく冷やす『アイススラリー』とは?

熱中症対策とパフォーマンス維持のための内部冷却の方法として、スポーツ界で注目されているのが『アイススラリー』です。アイススラリーとは、液体に微細な氷の粒が混じったシャーベット状の飲み物で、冷蔵庫から出した飲み物が4℃くらいなのと比べて、マイナス1℃と低温。細かい氷の粒に液体が混じった流動性のある飲み物のため、体に浸透しやすく、効率よく内側から体を冷やせるという特徴もあります。

また、スポーツ飲料などで作ったアイススラリーは、冷却効果に加え、糖質や塩分、ビタミンなどの補給も同時に行うことができます。手軽に飲めることもあり、アイススラリーは運動前や運動後、さらには試合中のハーフタイムなどあらゆるシーンで活用できる冷却方法と言えるでしょう。

アイススラリーはスポーツの現場のみならず、私たちの熱中症対策にも有効です。ただし、マイナス1℃の冷たい飲み物なので、一度に大量に摂ると逆効果になってしまうことも。
「水分摂取と同じで、人によって適量や適温は異なります。胃腸が弱い人が冷たいアイススラリーを一度に大量に摂ると、胃腸に負担がかかってしまいます。また、人間の体には深部体温を一定に保とうとするホメオスタシス(生体恒常性)が備わっているので、体温が下がり過ぎると、今度は体温を上げようとします。いずれにしても、アイススラリーを一度に大量に飲むのは控えたほうがよいでしょう」。

『暑熱順化』で、熱中症になりにくい体に!

スポーツの現場における暑さ対策では、水分摂取や冷却の他に、体を暑さに慣れさせる『暑熱順化』も重要視されていると言います。熱中症対策にも役立つ暑熱順化は、どのように行えばよいのでしょうか。

「スポーツにおける暑熱順化トレーニングは、気温が高い中で運動し、汗をかくというものです。汗をかきやすい体にしていくのがねらいなので、一般の人は入浴などで汗をかくのでもよいでしょう。大事なのが、暑熱順化を始める時期です。日本の夏で一番暑くなるのは、例年8月の1〜2週あたりですが、熱中症が最も起こりやすいのはその時期ではありません。梅雨明け直後の、体がまだ暑さに慣れていない時期に熱中症になる人が多いのです。そのため、梅雨の時期にしっかり汗をかくことが大切になります」。

暑熱順化で体が暑さに慣れるまでには約2週間かかるとされています。天気の影響もあって活動量が落ちやすくなる梅雨ですが、比較的涼しい朝晩の時間帯にジョギングやウォーキングをしたり、入浴などをしたりして、汗をかくことを意識して過ごしましょう。汗をかいた後はしっかり水分補給をし、適度に体を冷やしてあげることで疲労回復もスムーズに。暑熱順化は夏バテ予防にもおすすめです。

暑熱環境下でウォーキングやスポーツをする時など、私たちの日常生活の熱中症対策として、こうしたスポーツの現場で実践されている方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。
監修プロフィール
長谷川 博先生
広島大学大学院人間社会科学研究科教授 はせがわ・ひろし長谷川 博先生

横浜国立大学教育学部卒業後、横浜国立大学大学院教育学研究科修了(体育学修士)、東京都立大学大学院理学研究科修了(理学博士)。広島大学総合科学部助手、ベルギーブリュッセル自由大学海外特別研究員などを経て、現職。運動生理学を専門として、運動及び環境ストレス時における生体反応や身体の適応反応について生理学的手法を用いて分析している。国立スポーツ科学センター「東京オリンピック特別プロジェクト」研究員などを務める。

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